10回クイズ現象はどこでも起こる!音に支配される脳

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みなさん、突然ですがいきなりこう言われたことはありませんか?


言われた通り素直にピザ、ピザ、ピザ、ピザ……と繰り返します。律儀に指なんか折ったりして。言い終えると相手は己の関節を指差して「じゃあここは?」。

迷う余地はない。答えはもちろん……
「ひざ!!」自信満々に答えるも……
こうなったらもう相手の思うツボである。

うん。腹立つ。
では、どうして「引っかかって」しまうのでしょうか。
ピザとひざ、音が似ているからですね。

答えはひじだと頭ではわかっていても、10回も言わされてしみついたピザの音・語感に思考を邪魔されて、ピザに語感がより近いひざを答えに選んでしまうのです。指さされたものが何か黙って考えているのに、私たちの脳は想像以上に言葉の音に支配されやすいようです。
驚くことに、なんとこの「10回クイズ」のような現象は、文章を黙読しているときでも起こることがいくつもの調査によって明らかになっています。「黙」読ですよ!10回ゲームと違って声に出して言うというプロセスが全く含まれていないのに、です。
では、早速調査の内容の説明に移りたいと思います。

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日本語の場合

紹介の前に、まず日本語で使われている文字について考えてみましょう。この記事を読んでいただいても分かる通り、日本語にはひらがな、カタカナ(総称して仮名と呼びます)、漢字3種類の文字がいっぺんに使われていますね。漢字だけを使う中国語や、アルファベットだけを使う英語とは対照的です。
では、漢字と仮名の大きな違いとはなんでしょうか。
 この字をみてください。これ1文字だけで、鍵穴に差し込んで回す、あの小さな金属片を表すことができます。つまり、文字そのものが言葉の意味を表しているのです。
カギ これはどうでしょう。やはりあの小さな金属片が頭に浮かぶと思いますが、これはカとギがこの順番で並んでいるからです。カだけでもギだけでも鍵の意味を読み取ることはできません。つまり、漢字と違って文字そのものには意味がなく、他の文字と一定の順番で組み合わされて語を作ることではじめて意味をなすのです。この点ではアルファベットに似ていると言えますね。英語のkeyも、k、e、yの1文字ずつでは何も意味することができません。
次に、これを見てください。

美術館
ビジュツカン

どちらの方がすぐに美術館が頭に浮かびますか?漢字で書かれた方がわかりやすいという方が多いのではないでしょうか。カタカナでビジュツカンと書かれても、無意味な音の羅列のように見えてしまいますよね。つまり、漢字は意味との結びつきを強めるのに対し、カタカナは意味との結びつきを弱め、音との結びつきを強めるといえるでしょう。

Yamazakiらは、次のような文をスペースで空けたひとかたまりずつ日本語を母語とする被験者に黙読させ、このようなカタカナと漢字の持つ性質の違いを調査しました。

1:自分の 車の 鍵を 同期の 仲間達と 昨日 行った 居酒屋で 無くしたと 彼は 言っていた。
2:自分の 車の カギを 同期の 仲間達と 昨日 行った 居酒屋で 無くしたと 彼は 言っていた。

被験者は、文を読む前に数字を覚えます。

1:カギと語の最初の音が重なる数字(例:919、90)を覚える
2:カギと語の最初の音が重ならない数字(例:313、30)を覚える

919、90を読みくだせばきゅうひゃくじゅうきゅう、きゅうじゅう となり、カギ と同じくカ行で始まる語であることがわかります。対して313、30はさんびゃくじゅうさん、さんじゅうとなり、サ行で始まりますので、カギと音は重なりません。
音が重なる数字を覚えるのは、10回クイズでいうところの「ピザって10回言う」のと同じはたらきをします。そして、その状態で「鍵・カギ」を見て記憶するのは、ひじを見せられて「じゃあここは?」です。ひじを見てもひざとつい行ってしまうように、「鍵・カギ」を覚えようとしても919、90の語感に邪魔されれば、覚えるのに時間がかかることが予想されます。
また、「居酒屋で」を見たときには、その後に続くべき「鍵・カギ」を思い出す必要がありますので、音の重なりで混乱させられていれば、思い出すのに時間がかかるはずです。
すると、カギと語の最初の音が重なる数字を覚えた被験者は漢字で書かれた「鍵」の部分を覚えるのに時間がかかった一方、「居酒屋で」の部分で思い出すのにはそれほど時間がかかりませんでした。

しかし、カタカナでカギと書かれていると、反対の結果となりました。「カギ」を頭に入れるのには時間がかからなかった一方で、今度はそれを思い出すのにより長く時間がかかってしまったのです。
驚くべきことに、音との結びつきがより小さいと思われる漢字表記であっても、似ている音に影響されてしまうのですね。ただし、思い出す際には、漢字で覚えた場合には音の影響をそれほど受けずに記憶から取り出せるのに対し、カタカナだと音との結びつきの強さゆえ、直前に覚えた似た音により邪魔されやすくなるため時間がかかってしまうと考えられます。世界史などでカタカナの人名が覚えられず、語感は似ているけど全く違うカタカナ語を書いてしまうあるあるなミスも、これで説明がつくかもしれません。

英語の場合

黙読なのに、直前にインプットされた言葉の音に影響されてしまう現象は英語でも見られるようです。
Kushらは、英語を母語とする被験者を対象に次のような文を用いて調査を行いました。Yamazakiらの実験と同様、スラッシュ/ で区切られたひとかたまりずつ被験者に黙読させる方式です。

It was the boat/ that the guy/ who/ drank/ some hot coffee/ sailed/ on two sunny days

被験者たちは以下の3つのグループに分けられました。
文章を読む前に
1:何も覚えない
2:最初に出てくる語(ここではboat:ボート)と韻が同じでない語を3語覚える(例:table-sink-truck)
3:最初に出てくる語(ここではboat)と韻が同じ語を3語覚える(例:coat-vote-note)

先ほどのYamazakiらのやり方と似ていますね。
ここで似ている音とされているのは韻です。日本語だとラップでもない限りあまり気にされることはありませんが、英語だとかなり重要で、詩を書くうえでの一大技法になっているくらいです。日本語でいうと、鳥と森、のような語の組み合わせです。ローマ字で書くとtoriとmori、下線を引いた部分の音が一致していますね。
韻が同じ語を覚えた場合、boatという語を見て覚えるのと、sailed(漕いだ)の部分でそれを思い出すのとが邪魔されるはずです。
韻が同じ語を3語覚えたグループは、他の2つのグループに比べてboatを覚えるのにより長く時間がかかったのに対し、それを思い出すのにかかった時間は他の2つのグループとさほど変わらないという結果になりました。英語では、音の類似は記憶の際に悪さをするけれども思い出すときにはあまり影響しないと言えそうです。

まとめ

・書かれたものを黙って読んでいても、10回クイズのごとく言葉の音が記憶の邪魔をする
・それはどうやら日本語に限った現象ではなさそうだ

ということです。もっと詳しく知りたい方は、以下に出典を載せてありますのでコピペして検索してみてくださいね!

Kush, D., Clinton L. J., & Van Dyke, A. (2015). “Identifying the role of phonology in sentence-Level reading” Journal of Memory and Language, 79, pp18-29.
Yamazaki, Y., Kohita, R., & Miyamoto, E. T. (2016). Phonological interference affects kanji earlier than kana during silent sentence comprehension. Proceedings of the Japanese Society for Language Sciences 18th Annual International Conference (JSLS2016),June 4-5. University of Tokyo, Komaba.

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